事業報告書

公益財団法人仏教美術研究上野記念財団

令和4(2022)年度事業報告書
 

1.仏教美術に関する調査研究事業
 @「日本における戒律と大乗仏教との関係を巡る諸問題」を課題にした研究活動

◇共同研究者
・井上 一稔 (当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・赤尾 栄慶 (当財団評議員、同研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・淺湫   毅 (当財団研究委員会委員、京都国立博物館連携協力室長)
・山川   曉 (当財団研究委員会委員、京都国立博物館企画室長)
・大原 嘉豊 (当財団研究委員会委員京都国立博物館保存修理指導室長)
・羽田   聡 (京都国立博物館美術室長)
・井並林太郎(京都国立博物館企画室研究員)
・船山   徹 (京都大学人文科学研究所教授)
・大谷 由香 (龍谷大学文学部准教授)
・岩田 朋子 (龍谷大学龍谷ミュージアム准教授)
・西谷   功 (泉涌寺宝物館「心照殿」学芸員)
                                     (研究代表者は大原嘉豊)

 

 本研究は令和3年度から2年間にわたって取り組み、京都国立博物館で令和3年に開催された「鑑真和上と戒律のあゆみ」及び令和4年開催の「最澄と天台宗のすべて」の両特別展覧会と密接な関係を持たせながら実施するものであった。特別展「最澄と天台宗のすべて」では、当時の天台戒家の第一人者であり、法勝寺流の基礎を築いた恵鎮円観の弟子、理玉和尚の創建した等妙寺に関わる文化財が出展された。等妙寺は京都・法勝寺の遠国四戒壇として重きをなした寺院であり、その旧境内は発掘が進み、史跡にも指定され、法勝寺流の教学を伝える文化財の調査も進められている。一方、その本寺にあたる滋賀・西教寺所蔵法勝寺伝来文化財、滋賀・聖衆来迎寺所蔵元応寺伝来文化財の調査も進められている。

 研究活動の中心となる「研究発表と座談会」は、「中世天台戒家の思想と文化」をテーマとして、特別展(4月12日〜5月22日)に合わせて4月29日に京都国立博物館講堂で開催し、全国から約70名の仏教美術の研究者や市民が参加した。

 研究代表者の大原嘉豊氏(京都国立博物館保存修理指導室長)が司会を行い、舩田淳一氏(金城学院大学文学部教授)が「中世天台戒家の思想」、鯨井清隆氏(大津市歴史博物館学芸員)が「文化財にみる興円・恵鎮と元応寺流・法勝寺流」、幡上敬一氏(鬼北町教育委員会教育課文化スポーツ係係長)が「史跡等妙寺旧境内の調査成果と等妙寺の文化財」と題した研究内容をそれぞれ発表した。発表に続く座談会は発表者3氏と、参加した研究者とのやり取りで議論が深まり、今後の研究の展望に期待がもたれた。

 当日の発表内容と座談会の概要は報告書第49冊として令和4年度に刊行した。国内外の研究者、研究機関、図書館などに約600冊を無料配布し、研究に役立ててもらう。また一般市民には印刷原価で頒布している。

A次年度以降の研究活動について
 次年度令和5年度以降の調査研究課題については、研究委員会委員の淺湫毅・京都国立博物館上席研究員と準備を進め、「浄土信仰とその造形」をテーマに、令和5年度から2年間取り組むことになった。

 令和5年度は「浄土真宗を中心とした祖師信仰とその造形」を研究課題とし、代表研究者を羽田聡・京都国立博物館美術室長がつとめ、共同研究者を選出。また、令和5年3月から京都国立博物館で開催される特別展「親鸞―生涯と名宝」に合わせ「研究発表と座談会」の開催を予定し、令和5年3月開催の研究委員会と理事会・評議員会に事業計画の議案として提出し承認された。

2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
 毎年、若手研究者研究奨励金給付選考委員会(11人)が選んだ大学院博士後期課程在籍者3名(以内)に対して、奨励金としてそれぞれ20万円を給付している。例年、選考委員会を開催して各委員の採点結果をもとに協議し、高得点であった下田麻里子(早稲田大学大学院)、付恩浩(東北大学文学大学院)、王?(早稲田大学大学院)の3氏を選んだ。在学証明書の提出を受け、4月末までに奨励金を支給した。3氏からは年度内に実績報告書が送付された。

 なお、コロナ禍で中国での実地調査が困難であるとの理由で調査研究が「次年度に延期」されていた令和3年度受給者の大沼陽太郎氏(東北大学大学院)は、令和5年3月に中国での調査研究を実施し、実績報告書が年度内に提出された。

事業報告の附属明細書
 令和4(2022)年度事業報告には「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則」第34条第3項に規定する附属明細書に記載すべき「事業報告の内容を補足する重要な事項」が存在しないので、これを作成しない。

 

 

公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
2021(令和3)年度事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業
 @「日本における戒律と大乗仏教との関係を巡る諸問題」の研究
◆共同研究者

・井上一稔  (当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・赤尾栄慶  (当財団評議員、同研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・淺湫  毅  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館学芸部連携協力室長[彫刻])
・山川 曉(京都国立博物館企画室長)
・大原嘉豊  (京都国立博物館学芸部保存修理指導室長[仏画])
・羽田  聡  (京都国立博物館学芸部美術室長兼列品管理室長[書跡])
・井並林太郎(京都国立博物館企画室研究員)
・船山 徹(京都大学人文科学研究所教授)
・大谷 由香(龍谷大学文学部准教授)
・岩田 朋子(龍谷大学龍谷ミュージアム准教授)
・西谷 功(泉涌寺宝物館「心照殿」学芸員)

(研究代表者は大原嘉豊とする)        
 

◆研究目的
 律は、僧伽の集団生活の維持のために生じた社会規範であり、仏教の発生初源に遡り、部派ごとに整理・維持された。インドの初期大乗仏教において大乗教団独自の律蔵は存在せず、部派仏教のそれが用いられたが、この事情は中国・韓国・チベット・モンゴルの大乗仏教においても同様であり、中国仏教では主として四分律が採用された。日本には鑑真(688〜763)によって四分律が齎され、東大寺、観世音寺、薬師寺、唐招提寺に戒壇が建立された。これにより、東アジアの国際標準に基づく僧侶の身分が担保されることになったが、釈迦在世時のインドとは時代・風土を大きく異にする日本での律の存在は矛盾を大きく孕むものであ った。しかし、最澄(767〜822)により梵網経による大乗戒壇が設立された後は、いわゆる小乗戒ではなくて菩薩戒単受が採用されるに至り、後世にも大きな影響を与えた。これは日本仏教のみにみられる特殊な戒律の受容形態である。
 この日本の戒律を巡る諸運動は、そのベクトルは正負逆転する場合もあるが、日本社会の社会構造の変化に仏教が向き合い、自らの存在の自覚と現状への適正化を図ったことが根底にあり、仏教が国民的宗教へと成長した原動力であった。本研究は、大乗仏教に基づく菩薩戒思想に注目したうえで、日本における戒律運動を考察し、日本仏教の特質の一面を明らかにすることで、仏教美術研究全般の発展に貢献することを目指すものである。

◆研究内容
 本研究は「日本における戒律と大乗仏教との関係を巡る諸問題」をテーマに 21 年度から2 年間にわたって取り組むこととした。京都国立博物館で 21 年春に開催の「鑑真和上と戒律のあゆみ」及び 22 年春開催予定の「最澄と天台宗のすべて」の両特別展覧会と密接な関係を持たせながら実施するものであった。
 21 年度は「日本における梵網経と菩薩戒思想の問題」をテーマとする「研究発表と座談会」を特別展開催中の 5 月 9 日に京都国立博物館で開く予定だった。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「研究発表と座談会」を中止し、研究発表を行う予定だった船山徹氏(京都大学人文科学研究所教授)、大原嘉豊氏(京都国立博物館保存修理指導室長)、大谷由香氏(龍谷大学文学部准教授)の講師 3 人による「鼎談」に切り替え、12 月 11 日に京都国立博物館内の会議室で実施した。
 そして、鼎談の中身と、3 氏の論文を報告書第 48 冊として 22 年 3 月に刊行した。同報告書は、国内外の研究者や研究機関、図書館などに無料配布して研究に役立ててもらう。また一般市民には印刷原価で頒布する。

2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
毎年、当財団の若手研究者研究奨励金給付選考委員会(11 人)が選んだ大学院博士後期課程在籍者3名(以内)に対して、奨励金としてそれぞれ 20 万円を給付している。
 例年、選考委員会で協議して候補者を決定しているところ、今回はコロナ禍に対応して、各委員がメール送信した採点を事務局が集計し、高得点だった花澤明優美(清泉女子大学大学院)、坂本英駿(金沢美術工芸大学大学院)、大沼陽太郎(東北大学文学研究科)の 3 氏を選んだ。
 なお、花澤・坂本両氏からは年度内に実績報告書が事務局に送付された。大沼氏については、コロナ禍の状況下で中国での実地調査が困難であるとして、「次年度延期願い」が指導教授・長岡龍作氏の署名を添えて提出され、理事会で了承した。

以上

 

公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
2020年(令和2年)度事業報告  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業
 @「聖地と巡礼」の研究
◆共同研究者

・井上一稔  (当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・赤尾栄慶  (当財団評議員、同研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・淺湫  毅  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館学芸部連携協力室長[彫刻])
・大原嘉豊  (京都国立博物館学芸部保存修理指導室長[仏画])
・羽田  聡  (京都国立博物館学芸部美術室長兼列品管理室長[書跡])
・末兼俊彦  (京都国立博物館学芸部工芸室主任研究員[金工])
・上杉智英  (京都国立博物館学芸部美術室研究員[書跡])
・井並林太郎(京都国立博物館学芸部美術室研究員[絵巻])
・下坂  守  (京都国立博物館名誉館員)
・大橋直義  (和歌山大学准教授)
・大高康正  (静岡県富士山世界遺産センター教授)
・藤原重雄  (東京大学史料編纂所准教授)

(研究代表者は羽田聡とする)        
 

◆研究目的
聖地を巡礼・巡拝することは、仏教でも他の宗教と同様に各国・各宗派で古くからおこなわれている重要な信仰形態のひとつである。大陸の釈迦遺跡や五台山への参詣、日本の西国三十三所や四国八十八箇所など多様なあり方が認められる。
これらの聖地信仰は、そこに安置された仏像や神体などへの信仰を増進させ、その霊験や功徳を説く縁起絵巻や参詣曼荼羅といった絵画作品を生み出す土壌となった。さらに、仏教史に名を残す高僧も聖地巡礼をおこなったことが知られており、円仁『入唐求法巡礼行記』や成尋『参天台五台山記』といった仏教文献や絵巻「一遍聖絵」など高僧伝の成立に、巡礼という行為が大きく作用している。
本研究は、日本における聖地への信仰と巡礼という行為について、上記に挙げた美術作品を取り上げながら多面的に考察し、仏教美術研究全般の発展に貢献することを目指すものである 。

◆研究内容および計画
「聖地と巡礼」の研究は2年計画で取り組み、2019年(令和元年)度は「一遍聖絵と遊行上人縁起絵」をテーマに研究した。2020年(令和2年)度は「西国三十三所」に関わる作品のうち、とくに参詣曼荼羅を取り上げる。
「西国三十三所」は、三十三の観音霊場(札所)を巡る日本最古の巡礼路である。成立は奈良時代にまでさかのぼるともいわれ、二府五県(京都、大阪府、和歌山、奈良、兵庫、滋賀、岐阜県)を包括する総距離は千`に及ぶ。当初、修行僧や修験者たちを中心に行われてきた巡礼は、次第に地域的・階層的な広がりをみせ、彼らに伴われるかたちで武士や一般庶民も行うようになった。
この聖地への巡礼が生み出した文化的所産は、観音について記す経典、霊験を説いた縁起絵巻、姿を可視化した仏画あるいは彫刻、さらには札所の歴史や功徳をわかりやすく説明した参詣曼荼羅や勧進状など、じつに多岐にわたる。いずれも多くの研究が存在する各作品にあって、とくに参詣曼荼羅は、美術史のみならず、歴史学や図像学といった多面的な成果が報告されている。そうした多くの参詣曼荼羅が、京都国立博物館での特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」(2020年4月11日〜5月31日)で展示される予定だった。しかし、コロナ禍による緊急事態宣言のために順延(7月23日〜9月13日)となった。
この展覧会に合わせて期間中の5月9日に、「参詣曼荼羅の諸相」のテーマでその成立や解釈について考える「研究発表と座談会」(シンポジウム)を計画していたが、これも緊急事態宣言などの影響で中止せざるを得なかった。ただし、発表予定だった研究者3人のうち2人の協力を得て、「参詣曼荼羅の諸相 研究報告書第47冊」として刊行し、例年通り国内外の研究者、研究機関、図書館などに配布した。

◆研究方法
a.新資料、必要な資料で未撮影のものは、その都度調査し、撮影する。
b.撮影原板、焼き付け、およびデジタルデータは、公益財団法人仏教美術研究上野記念財団の購入によることを明記し、京都国立博物館に寄贈する。
c.研究資料等は、その整理完了後、適宜一般研究者に公開する。
d.シンポジウム、研究座談会に際して、テーマに関する有用な資料を作成、配布する。

A仏教美術資料の収集と研究
研究グループを中心に、各地の研究者を募って新たな研究の視座を模索する。当財団は2020年2月に発足50周年(1970年2月1日設立)を迎えた。記念事業として、当財団と上野コレクションの作品を紹介する記念誌の作成を作成するとともに、京都国立博物館で「公益財団法人仏教美術研究上野記念財団設立50周年記念 新聞人のまなざしー上野有竹と日中書画の名品」の展示会を開催した。当初は夏に開催を予定していたが、コロナ禍で順延となり、会期は2021年2月2日から3月7日となった。期間中7,933人の入場者があった。また作品解説兼記念誌を1千部印刷し、国内の研究者や機関に無料配布したほか、希望者には印刷原価で頒布した。

2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
毎年、当財団の若手研究者研究奨励金給付選考委員会(11人)が選んだ大学院博士後期課程在籍者3名(以内)に対して、奨励金としてそれぞれ20万円を給付している。3月2日に選考委員会で選んだ3氏から在学証明書の提出を受けて4月中に支給した。

以上

 

公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
2019年度事業報告  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業
 「聖地と巡礼」の研究
◆共同研究者

・赤尾栄慶  (当財団評議員、研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・淺湫  毅  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館連携協力室長)
・山川  曉  (京都国立博物館教育室長)
・大原嘉豊  (京都国立博物館保存修理指導室長)
・羽田  聡  (京都国立博物館美術室長)
・井並林太郎(京都国立博物館企画室研究員)
・米倉迪夫  (東京文化財研究所名誉研究員)
・梅沢  恵  (神奈川県立金沢文庫主任学芸員)
・谷口耕生  (奈良国立博物館教育室長)

(研究代表者は井並林太郎とする)        
 

◇研究目的
聖地を巡礼・巡拝することは、他の宗教と同様に仏教でも各国・各宗派で古くからおこなわれている、重要な信仰形態のひとつである。大陸の釈迦遺跡や五台山参詣、日本の西国三十三所や四国遍路など多様なあり方が認められる。これらの聖地信仰は、そこに安置された仏像や神体などへの信仰を増進させ、縁起絵巻や参詣曼陀羅といった絵画作品を生み出す土壌となった。さらに仏教史に名を残す高僧も聖地巡礼をおこなったことが知られており、円仁『入唐求法巡礼行記』や成尋『参天台五台山記』といった仏教文献や絵巻「一遍聖絵」など高僧伝の成立に、巡礼という行為が大きく作用している。本研究は、日本における聖地への信仰と巡礼という行為について、上記に挙げた美術作品を取り上げながら多面的に考察し、仏教美術研究全般の発展に貢献することを目指すものである。

◇研究実績
「聖地と巡礼」の研究は2年計画とする。初年度の2019年度は「一遍聖絵と遊行上人縁起絵」を、次年度は「西国三十三所」を取り上げる。
「一遍聖絵と遊行上人縁起絵」の対象となる時宗初祖一遍上人(1239〜89)と二祖真教上人(1237〜1319)は、念仏を広めるため日本各地を遊行したことで知られている。その事績は、国宝「一遍聖絵」や「遊行上人縁起絵」諸本に描かれており、祖師が足を運んだ聖地は今でも篤い信仰を集める。とくに「一遍聖絵」の風景描写は第一級のものとして高く評価されており、その表現にあたっては、水墨画技法の学習や、宮曼荼羅など先行図様の援用などが指摘されている。
京都国立博物館で昨年4月13日から6月9日まで特別展「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」が開かれ、「一遍聖絵」全巻が公開された。これに合わせて期間中の4月20日(土)、「一遍聖絵と遊行上人縁起絵」のテーマで、時宗祖師絵伝に描かれた聖地や遊行について考える「研究発表と座談会」(シンポジウム)を京都国立博物館と開催した。中世仏教美術史における新たな知見や課題を、100人を超える参加者と共有するとともに関連の仏教美術への関心を高めた。
またシンポジウムの内容は「一遍聖絵と遊行上人縁起絵 研究報告書第46冊」として年度内に刊行し、国内外の研究者、研究機関、図書館などに配布、一般市民には印刷原価で頒布した。

2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
当財団の若手研究者研究奨励金給付選考委員会が選んだ大学院博士後期課程在籍者3名(以内)に対して、それぞれ20万円を給付している。昨年2月25日の給付選考委員会で選んだ増田政史氏(慶応義塾大学大学院後期博士課程 日本彫刻史専攻)、折山桂子氏(京都大学大学院博士後期課程 中国仏教美術史専攻)、易丹韵氏(早稲田大学文学研究科博士課程 美術史専攻)の3氏から在学証明書の提出を受けて同4月末までに支給した。今年3月末までに3氏から研究報告書が財団に提出された。

以上


公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
2018年度事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

@仏教美術における工房をめぐる諸問題の研究

◇共同研究者

・井上一稔  (当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・赤尾栄慶  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・伊藤信二  (京都国立博物館企画室長)
・淺湫  毅  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館連携協力室長)
・山川  曉  (京都国立博物館教育室長)
・大原嘉豊  (京都国立博物館保存修理指導室長)
・羽田  聡  (京都国立博物館保存修理指導室主任研究員)
・井並林太郎(京都国立博物館企画室研究員)
・上杉智英  (京都国立博物館)
・皿井  舞  (東京国立博物館絵画彫刻室研究員)
・山口隆介  (奈良国立博物館研究員)
・佐々木守俊(岡山大学准教授)
・奥  健夫  (文化庁、座談会の司会担当)

(研究代表者は淺湫毅とする)        
 

◇研究目的
仏教美術は、信仰の対象である反面、職能的手工業産品としての側面も有する。この観点は、その生産を可能にした体制、つまり工房の問題へと連動する。これに関しては社会経済史的観点からの先行研究も既に存在する所である。
仏師としての鞍作止利や聖徳太子の画師制度という部民制を基礎とした初期的段階からそれを基礎に確立した奈良時代の官営工房体制、及びその衰退後に展開する工房の存在様態には、供給に対する需要の側の動き、すなわち、需要の前提となる仏教美術の注文階層や経済史的要件はもちろんのこと、信仰的、様式的な問題など様々な検討課題が存在している。例えば、仏師、絵仏師については、平安時代中期、十一世紀に僧綱位が授与され、その社会的地位が確立したことが知られているが、その後、彼らが主に活躍する場となった仏所や絵所座についてはまだまだその史的展開については考えるべき余地がある。更に、金工などの工芸分野に目を転じると、未解明の点が多く、彫刻・絵画分野との落差とその原因など大きな問題として横たわっている。本研究では、かかる仏教美術の生産の主体となった工房の実態やその展開に迫ることを目的とする。 絵画・彫刻・書跡・工芸などの諸分野を縦断する形で資料を収集し、研究を行う。加えて、資料の公開、研究座談会の開催を通じて仏教美術研究の発展に資せんことを期するものである。
◇研究内容
本研究は、平成29年度からの2カ年の継続事業だった。平成29年度は絵仏師に関する諸問題が中心テーマだったが、平成30年度は木彫像を中心として立体の仏像製作にたずさわった仏師と、その工房である仏所に関する調査研究を重点的に行った。さらに、未刊行の文献史料を収集した。これらの成果は、研究者らを対象にした「研究発表と座談会」(平成30年9月2日開催)で発表した。また平成30年8月8日〜9月9日に京都国立博物館で開催の特集展示「百万遍 知恩寺の名宝」および名品ギャラリー「日本の彫刻」の展示内容に反映させ、一般市民にも還元した。
それらの内容は『研究発表と座談会 仏師と仏所をめぐる諸問題』(研究報告書第45冊)として平成30年度末に刊行し、国内外の研究者、研究機関、図書館などに約700の機関、施設、個人に配布した。
また京都国立博物館で開催の特別展「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」(平成31年4月13日〜6月9日、京都国立博物館、朝日新聞社など主催)に向け、当財団の淺湫毅・研究委員が昨年7月に浄信寺(滋賀県)、11月に極楽寺(京都市)、今年1月には東方寺 西蓮寺(いずれも滋賀県)で仏像等の調査を実施し、その調査費用の一部を当財団が補助した。こうした貢献が認められ、この特別展に当財団が協力団体として参画することになり、特別展の案内パンフレットをはじめ、朝日新聞の記事や社告等で当財団名が掲載された。
この他、京都国立博物館主催で今年1月26日に同館で開催された、韓国の仏教美術研究家の姜友邦(カン・ウバン)氏による国際特別講演会に協力し、全国約700の仏教美術を研究する関係者・機関・施設に開催告知のチラシを送付した。
2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
当財団の若手研究者研究奨励金給付選考委員会が選んだ大学院博士後期課程在籍者3名(以内)に対して、それぞれ20万円を給付している。昨年3月9日の給付選考委員会で選んだ村上幸奈、宮ア晴子、因幡聡美の3氏から在学証明書の提出を受けて同4月末までに支給した。報告書については3氏から今年3月末までに提出を受けた。

以上

 
公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
平成29年度事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

@仏教美術における工房をめぐる諸問題の研究

◇共同研究者

・井上一稔  (当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・赤尾栄慶  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・伊藤信二  (京都国立博物館企画室長)
・淺湫  毅  (当財団研究委員会委員、京都国立博物館連携協力室長)
・山川  曉  (京都国立博物館教育室長)
・大原嘉豊  (京都国立博物館保存修理指導室長)
・羽田  聡  (京都国立博物館保存修理指導室主任研究員)
・井並林太郎(京都国立博物館企画室研究員)
・谷口耕生  (奈良国立博物館教育室長)
・古川攝一  (大和文華館学芸員)
・増記隆介  (神戸大学大学院文学研究科准教授)
・藤元裕二  (浅草寺職員)

(研究代表者は伊藤信二とする)        
 

◇研究目的
仏教美術は、信仰の対象である反面、職能的手工業産品としての側面も有する。この観点は、その生産を可能にした体制、つまり工房の問題へと連動する。これに関しては社会経済史的観点からの先行研究も既に存在する所である。
仏師としての鞍作止利や聖徳太子の画師制度という部民制を基礎とした初期的段階からそれを基礎に確立した奈良時代の官営工房体制、及びその衰退後に展開する工房の存在様態には、供給に対する需要の側の動き、すなわち、需要の前提となる仏教美術の注文階層や経済史的要件はもちろんのこと、信仰的、様式的な問題など様々な検討課題が存在している。例えば、仏師、絵仏師については、平安時代中期、十一世紀に僧綱位が授与され、その社会的地位が確立したことが知られているが、その後、彼らが主に活躍する場となった仏所や絵所座についてはまだまだその史的展開については考えるべき余地がある。更に、金工などの工芸分野に目を転じると、未解明の点が多く、彫刻・絵画分野との落差とその原因など大きな問題として横たわっている。本研究では、かかる仏教美術の生産の主体となった工房の実態やその展開に迫ることを目的とする。 絵
画・彫刻・書跡・工芸などの諸分野を縦断する形で資料を収集し、研究を行う。加えて、資料の公開、研究座談会の開催を通じて仏教美術研究の発展に資せんことを期するものである。
◇研究計画
本研究は、平成29年度からの2カ年の継続事業。平成29年度は絵仏師に関する調査研究を重点的に行った。これらの成果は、研究者らを対象にしたシンポジウム(平成29年7月16日開催)で公開、発表するとともに、平成29年6〜7月に京都国立博物館で開催の名品ギャラリー「密教図像の美」の展示内容に反映させ、一般市民にも還元した。
シンポジウムの内容は『研究発表と座談会 平安時代後期を中心とした絵師の工房をめぐる諸問題』(研究報告書第44冊)として平成29年度内に刊行し、国内外の研究者、研究機関、図書館などに配布し、一般市民には印刷原価で頒布した。
30年度は前年度に引き続き、彫刻を研究の主体とし、美術・造形にかかわる作品や図像、および関連資料を収集・整備する。また、一般市民への啓蒙活動としては研究座談会などを開く予定である。
◇研究方法
a.新資料、および必要な資料で未撮影のものは、その都度調査し、撮影する。
b.既に撮影された学術写真の焼き付け、及びデジタルデータ化を行う。
c.撮影原板、焼き付け、およびデジタルデータは、公益財団法人仏教美術研究上野記念財団の購入によることを明記し、京都国立博物館に寄贈する。
d.研究資料等は、その整理完了後、適宜一般研究者に公開する。
e.シンポジウム、研究座談会に際して、テーマに関する有用な資料を作成、配布する。

A古写経の研究
前年度に引き続き、京都国立博物館が所蔵する守屋コレクションなどの古写経のコレクションと、京都府寺院重宝調査台帳や敦煌写経をはじめ貴重な仏教美術作品などのマイクロフィルムのデジタルデータ化を進め、調査研究の活性化に取り組んだ。京都国立博物館の大原嘉豊氏、当財団評議員の赤尾栄慶氏で構成する研究グループを中心に、各地の研究者を募って新たな研究の視座を模索した。

2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業
当財団の若手研究者研究奨励金給付選考委員会が選んだ大学院博士後期課程在籍者5名(以内)に対して、各年額10万円を給付する事業だが、3月6日の給付選考委員会で選んだ4氏から在学証明書の提出を受けて4月末までに支給した。4氏からは研究報告書が提出された。

以上


公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
平成28年度事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

@「禅宗をめぐる美術および文化事象の多面的研究」をテーマにした研究活動
 2カ年にわたる研究計画の第2年次として、第1年次から引き続き建仁寺、天龍寺、妙心寺など京都近郊の禅宗寺院の所蔵作品を中心に調査研究した。また、以下のメンバーによる共同研究で、東アジアから受け入れた文物が日本国内でどのように受容されたかを実際の作品に即して調査、検討した。

◇共同研究者

・相澤正彦 (成城大学文学部教授)
・赤尾栄慶 (当財団研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・淺湫  毅 (京都国立博物館連携協力室長)
・浅見龍介 (東京国立博物館企画課長)
・井上一稔 (同志社大学文学部教授)
・大原嘉豊 (京都国立博物館保存修理指導室長)
・川本慎司 (東京大学史料編纂所助教)
・末兼俊彦 (京都国立博物館研究員)
・根立研介 (当財団評議員、京都大学大学院教授)
・羽田  聡 (京都国立博物館主任研究員)
・福士雄也 (京都国立博物館研究員)
・福島恒徳 (花園大学文化遺産学科教授)
・古川元也 (神奈川県立歴史博物館主任学芸員)
・山川  曉 (京都国立博物館教育室長)

(共同研究代表者:羽田聡)        
 

 研究活動の中心となる研究発表と座談会を、「日本国内における禅宗文化の受容と伝播」をテーマに、平成28年5月4日京都国立博物館で開催した。全国から研究者、市民ら約120人が参加し、川本慎自氏(東京大学)が「禅宗寺院における典籍学習のかたち」、相澤正彦氏(成城大学)が「室町時代における水墨画の広がり―禅、文人、権力」、根立研介氏(京都大学)が「禅宗寺院彫刻と仏師―院派仏師の動向を中心に」の演題で、それぞれ研究発表した。これに続く座談会では、羽田聡氏(京都国立博物館)の司会で3氏と、会場からも西川秀敏氏(宝蔵禅寺住職)、浅見龍介氏(東京国立博物館)が加わって活発な論議を交わした。

 研究発表と座談会の内容は、本財団の研究報告書第43冊『日本国内における禅宗文化の受容と伝播』として28年11月に刊行し、国内外の研究者および研究機関、図書館など約500か所に配布した。
 また、本財団は「真言密教を中心とする仏教美術資料の集成とその研究」のテーマのもとに昭和62年度から、未刊行の図像類の資料を刊行しているが、同シリーズの13冊目となる『図像蒐成]V』を29年3月、刊行し、国内外の研究者、研究機関、図書館約500か所に配布した。京都・栂尾の高山寺に伝来した護摩爐壇形図像(京都国立博物館蔵)を写真撮影して収録し、解説を加えている。

A 仏教美術作品のマイクロフィルムのデジタルデータ化
 京都国立博物館は所蔵する古写経の守屋コレクションなど貴重な仏教典籍や美術作品のマイクロフィルムが劣化、滅失するのを防ぎ、幅広く活用されることを目指してそのデジタルデータ化に取り組んでいる。本財団は、研究活動で撮影した財団所有のマイクロフィルムを27年度までにすべてデジタルデータ化したが、引き続き事業に協力し、守屋コレクションの中国古経のうち大涅槃経、華厳経、大智度論など61巻をデジタルデータ化した。


2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業

 大学院博士後期課程の在籍者を対象にした制度である。研究するテーマとその達成の計画を書いた申請書をもとに審査し、5人以内に給付する。外部の学識経験者を含めて委員11名で構成する本財団の給付選考委員会で、以下の4氏(カギ括弧内は研究テーマ)を受給者に選び、各10万円を支給した。

・田中 水萌(神戸大学大学院)
   「地獄草子並びに関連諸作品の調査研究」
・丹村 祥子(大阪大学大学院)
   「平安時代初期菩薩形像の髪型に関する考察」
・姚 瑶(筑波大学大学院)
   「則天期前後の龍門石窟に関する研究−大型窟と小窟の比較を中心に」
・依藤 秩帆(京都市立芸術大学大学院)
   「東寺所蔵『両部曼荼羅残闕(甲本)』の想定復元模写及び研究」

以上



公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
平成27年度 事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

@「禅宗における『人』と『美術』を中心とした東アジアと日本との交流」をテーマにした研究活動
2カ年の研究計画「禅宗をめぐる美術および文化事象の多面的研究」の第1年次として、以下のメンバーによる
共同研究で建仁寺、天龍寺、妙心寺など京都近郊の禅宗寺院の所蔵作品を中心に調査研究した。
特に、肖像彫刻と唐物について重点的に分析し、あわせて未刊行の文献資料を収集した。

◇共同研究者
・赤尾栄慶(当財団研究委員会委員、京都国立博物館名誉館員)
・井上一稔(同志社大学文学部教授)
・福島恒徳(花園大学文化遺産学科教授)
・古川元也(神奈川県立歴史博物館主任学芸員)
・大原嘉豊(京都国立博物館主任研究員)
・浅見龍介(京都国立博物館列品管理室長)
・山川 曉(京都国立博物館教育室長)
・羽田 聡(京都国立博物館主任研究員)
・末兼俊彦(京都国立博物館研究員)
・福士雄也(京都国立博物館研究員)
共同研究代表者は羽田聡とする。         
 

 研究活動の成果は平成27年8月30日、京都国立博物館で開催した「平成27年度研究発表と座談会 禅宗における『人』と『美術』を中心とした東アジアと日本の交流」で発表した。全国から研究者、市民ら約百人が参加し、福島恒徳氏(花園大学)が「中国絵画と日本禅林の絵画」、山川暁氏(京都国立博物館)が「南北朝時代の袈裟観」、橋本雄氏(北海道大学)が「請来大蔵経と室町幕府・京都五山―朝鮮半島から日本への蔵経移転の実態をさぐる―」のテーマで、それぞれ研究発表した。これに続き、浅見龍介氏(東京国立博物館、当時・京都国立博物館)が加わり、羽田聡氏(京都国立博物館)の司会で活発な論議が繰り広げられた。また、その内容は28年4 月12日から5月22日まで京都国立博物館で開催の特別展覧会「禅─心をかたちに─」の展示内容に反映させることとした。
「研究発表と座談会」の内容は、本財団の研究報告書第42冊『禅宗における「人」と「美術」を中心とした東アジアと日本の交流』として28年3月に刊行し、国内外の研究者および研究機関、図書館など約500か所に配布した。

A 仏教美術作品のマイクロフィルムのデジタルデータ化
本財団の研究活動で撮影した書跡、絵像などの仏教美術作品のマイクロフィルムが約70巻ある。資料の劣化、滅失を防ぐとともに、幅広く活用されることを目指してデジタルデータ化に取り組んできた。2年目にあたる27年度で、財団が所有するマイクロフィルムすべてのデジタルデータ化を終えた。


2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業

 大学院博士後期課程の在籍者を対象にした制度である。27年度から受給者を「3人」から「5人以内」に増やした。外部の学識経験者を含めて構成する本財団の給付選考委員会で以下の4氏を受給者に選び、各10万円を支給した。
伊藤 久美  (東北大学大学院)
熊坂 聡美  (筑波大学大学院)
高志  緑  (大阪大学大学院)
中村 夏葉  (名古屋大学大学院)

以上



公益財団法人仏教美術研究上野記念財団
平成26年度 事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

@「南都と南山城をめぐる僧と造仏」をテーマにした研究活動
 2カ年の研究計画「南山城地域における仏教文化の伝播と変容」の第2年次として、
10 世紀から 14 世紀にかけての南山城地域の浄瑠璃寺、海住山寺、笠置寺、光明山寺跡、
禅定寺などと、南都の東大寺、興福寺との関わりを、僧侶の動向や仏像制作の側面から 探った。
以下のメンバーで共同研究を行った。
 
・井上一稔(当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・藤岡穣(大阪大学大学院教授)
・田中健一(大阪大谷大学講師)
・赤尾栄慶(当財団研究委員会委員、京都国立博物館上席研究員)
・淺湫毅(当財団研究委員会委員、京都国立博物館保存修理指導室長)
・宮川禎一(京都国立博物館企画室長)
・山川曉(京都国立博物館教育室長)
・大原嘉豊(京都国立博物館主任研究員)
・末兼俊彦(京都国立博物館研究員)

 研究活動の成果は、京都国立博物館で開催された特別展覧会「南山城の古寺巡礼」
(平成 26 年 4 月 22 日〜6 月 15 日)の展示に反映させた。
 さらに、特別展開催中の 5 月 12 日には「研究発表と座談会    南都と南山城をめぐ る僧と造仏」を 開催した。
 「研究発表と座談会」には全国から仏教美術の研究者ら約 90 人が集まり、一般市 民約 40 人が聴講した。
 淺湫毅氏(東京国立博物館)が「浄瑠璃寺の九体阿弥陀と四天王像をめぐって」、 岩田茂樹氏(奈良国立博物館)が「海住山寺四天王像とその周辺−大仏殿様四天王像 再考−」、横内裕人氏(京都府立大学)が「南山城の宗教環境−山寺というトポス−」 と題して、それぞれ研究発表した。このあと、発表者3氏に藤岡穣(大阪大学大学院)、 井上一稔(同志社大学)、浅見龍介(京都国立博物館)の各氏らが加わって活発な議 論を展開した。
 「研究発表と座談会」の内容は当財団の研究報告書第 41 冊として平成 27 年 3 月に 刊行し、国内外の研究者、研究機関、図書館など約 500 カ所に寄贈した。

A仏教美術作品のマイクロフィルムのデジタルデータ化
 これまでの研究活動で撮影した書跡、絵像などの仏教美術作品のマイクロフィルム約 70 巻を順次、デジタルデータ化する事業を始めた。初年度は、35 ミリフルサイズ 8,384コマ、ハーフサイズ 11,853 コマをスキャニングして外付けハードディスクに格納し た。

B京都国立博物館で開催した展覧会に関連する諸事業
 平成 27 年 1 月 2 日〜2 月 15 日に開催された「山陰の名刹・島根鰐淵寺の名宝」展に 合わせ、同博物館と協力して展覧会のチラシ 15,000 枚、ポストカード 4 種各 2,000 枚 を作成した。来場者に仏教美術への関心をより深めてもらうため、チラシ、ポストカー ドは無料で配布し、好評だった。



2.若手研究者育成を目的とした研究奨励金給付事業

 当財団が公益財団法人へ移行したのを記念して平成 25 年度に創設した事業の 2 年目
である。対象者は大学院博士後期課程在籍者 3 名(以内)で、給付額は各年額 10 万円 (返済不要)。
 当年度分は 25 年 12 月 1 日に募集を開始し、7 名が応募。26 年 3 月 11 日に開いた当 財団の研究奨励金給付選考委員会で、森井友之(同志社大学大学院)、橋本遼太(大阪 大学大学院)、温静(東京大学大学院)の3氏を選び、26 年 4 月に奨励金を給付した。
以上

 
 
平成25年度 事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

◇事業の概要
 「南山城地域を中心とした仏教文化の伝播と変容」を2カ年にわたって研究することとし、初年度は時代区分を上代において研究を進めた。同計画に関連して、岐阜市の美江寺を現地調査した。
 
◇共同研究者
・井上一稔(当財団評議員、同研究委員会委員、同志社大学教授)
・藤岡穣(大阪大学大学院教授)
・田中健一(大阪大谷大学講師)
・赤尾栄慶(当財団研究委員会委員、京都国立博物館上席研究員)
・淺湫毅(当財団研究委員会委員、京都国立博物館保存修理指導室長)
・宮川禎一(京都国立博物館企画室長)
・山川曉(京都国立博物館教育室長)
・大原嘉豊(京都国立博物館主任研究員)
・末兼俊彦(京都国立博物館研究員)

◇研究目的
 地域を越えた仏教文化の伝播と変容の過程を考える上で、それぞれの土地が持つ風土や 地理的な要因が与える影響はけして小さくない。日本国内における仏教史や文化史から見た南山城地域は、京都と奈良との中間地点にある地理的な特徴を持ち、それに伴って摂関家や社寺の抱える多数の荘園が複雑に入り組む地域である。その結果、同地域において展開された仏教文化にもさまざまな影響関係が見て取れる。
 また、地理的要因が仏教文化に与えた影響関係をより深く理解するために、南山城地域以外の補足研究として、京都・奈良から距離を隔てた近江の状況や、京都と鎌倉の中間地域である東海地方の状況を念頭に置きながら、古代から中世における日本国内の仏教文化の伝播と地域における変容の実態に迫ることを目的とした。

◇研究実績
 南山城地域の一休寺・観音寺・壽寶寺・禅定寺などが所蔵する彫刻作品を重点的に調査、研究した。
 平成25年10月14日、京都テルサ(京都市南区)で開いた「研究発表と座談会」では、中島正(木津川市役所)、田中健一(大阪大谷大学)、寺島典人(大津市歴史博物館)の3氏が研究発表し、井上一稔氏の司会で座談会を開いた。座談会には発表者3氏のほか、淺湫毅(京都国立博物館)、伊藤太(京都府教育委員会)両氏が加わった。聴衆は一般市民約20人を含め約100人だった。なお、研究発表と座談会に先立って9月29日、発表者や
研究グループのメンバーらが南山城・馬場南遺跡などを現地見学した。
 「研究発表と座談会」の内容は当財団の研究報告書第40冊『上代の南山城における仏教文化の伝播と受容』として刊行し、国内外の研究者、研究機関に寄贈した。これらの研究成果は、平成26年4月22日〜6月15日に京都国立博物館で開催の特別展覧会「南山城の古寺巡礼」の展示内容や講演会に活用させることにしている。 このほか、26年3月15、16の両日、研究グループのメンバーらが岐阜市・美江寺を調査し、国指定重要文化財「乾漆十一面観音立像」の内部にデジタルファイバースコープを挿入して、同像が享保18(1733)年に大規模な修理を施されていたことを突き止めた。

2.平成25年度若手研究者への研究奨励金給付事業
 
 当財団が平成25年4月1日、公益財団法人へ移行したのを記念して、若手の研究者を育成するため研究奨励金給付事業を創設した。対象は大学院博士後期課程在籍者で、3名に年額10万円を給付するものである。
 初年度の受給者については、平成24年12月1日、に募集を開始し、6名が応募。平成25年3月18日に開いた当財団の研究奨励金給付選考委員会で、西木政統(慶應義塾大学大学院)、鏡山智子(大阪大学大学院)、李智英(九州大学大学院)の3氏を選び、4月に入って各10万円を給付した。年度末には3氏から「研究実績報告書」が届いた。
                                                                  以上


 
平成24年度 事業報告書  

 

1.仏教美術に関する調査研究事業

 □研究主題 「鎌倉仏教とその造形」
仏教史や文化史から見た鎌倉時代は、貴族社会から武家社会への移行に伴い、法然・親鸞・日蓮・明恵・一遍らが活躍し、浄土宗・禅宗・日蓮宗などのいわゆる鎌倉新仏教が誕生した時代であった。
仏教美術からみれば、平安時代後期に続いて、法華経や浄土経典を中心的柱としながら、思想的・信仰的に多様な展開をみせていった。法華経は、その思想内部に造塔・造像の奨励を説き、浄土宗関係の教義は必ずしも造像や写経などの作善を促さない傾向があった。仏教彫刻に関しては、運慶・快慶の活躍によって、南都の復興と平安時代院政期には見られない躍動的で力強い表現の造像が行われた。
本研究は4か年計画の継続研究として、鎌倉仏教を中心とした宗教的造形の展開を、絵画・彫刻・書跡・工芸・図像などの具体的遺品を通じて探り、研究のための資料を収集してきた。平成24年度は研究計画の最終年度に当たり、京都・仁和寺などの所蔵品を調査するとともに、「研究発表と座談会」を開催し、研究報告書を刊行した。

 □研究態勢
赤尾栄慶・京都国立博物館上席研究員ら同館研究員を中心とした共同研究。

 □調査対象
・京都・神護寺所蔵の冷泉為恭模本山水屏風の調査と撮影
・京都・仁和寺御経蔵の守覚法親王関係聖教の調査と撮影
・京都・醍醐寺所蔵の重要文化財「十天形像」「山水屏風」の調査と撮影
・愛知県美術館所蔵の木村定三コレクションの仏画調査

 □研究発表と座談会
平成25年1月14日、京都テルサ(京都市南区)で、「仁和寺御流を中心とした院政期真言密教の文化と美術」をテーマに開催した。参加者は約90人。
東京大学大学院工学系研究科教授・藤井恵介氏が「中世建築指図と密教美術研究」、京都国立博物館研究員・大原嘉豊氏が「院政期における灌頂儀礼と守覚法親王〜十二天屏風と山水屏風の成立に関連して」、愛知県立大学日本文化学部教授・上川通夫氏が「院政期真言密教の社会史的位置〜大治と建久の間」と題して報告し、大阪大谷大学文学部教授・宇都宮啓吾氏の司会で座談会を行った。
この研究発表と座談会は財団ホームページで広報した。また朝日新聞文化面に案内記事が掲載された。参加者のうち約15人は往復はがきやメール、電話などで申し込んだ一般市民だった。

 □研究報告書
研究報告書を2冊刊行した。
@第38冊『研究発表と座談会 浄土宗の文化と美術』は平成23年度に開いた研究発表と座談会の報告書である。版下を23年度に制作していた。24年度に1000部刊行し、国内外の研究機関、研究者らに550部を寄贈した。残部は京都国立博物館ミュージアムショップにおいて、印刷原価で頒布している。
A第39冊『仁和寺御流を中心とした院政期真言密教の文化と美術』は上記の研究発表と座談会の報告書である。刊行は1000部。25年度に第38冊と同様、国内外の研究機関、研究者に寄贈し、一般にも頒布する。


2.若手研究者への研究奨励金給付事業を準備

 大学院博士後期課程の在籍者3名を対象に年額10万円を給付する「若手研究者への研究奨励金給付事業」を平成25年度にスタートさせるため、給付規程、選考委員会設置運営規則などを理事会・評議員会で議決した
平成25年度の受給者については、平成25年3月18日に選考委員会を開催して3名を選考した。(給付金の送金は25年度)

 

3.公益財団法人への移行を準備
平成24年6月26日、内閣総理大臣に対して移行認定申請書を提出した。
平成25年3月21日、内閣総理大臣より認定書を交付された。
(*平成25年4月1日移行登記した) 
                                                                 以上


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